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六二  イエズスの敵



 ご復活後一時間ほどしてから、カシウスはピラトの所に来ていた。かれは寝椅子に横になっていた。大いなる感動をもってこの兵士は、岩がふるえ、一位の天使が降って来て石を側にころがし、聖骸布が空になっていたことを説明した。イエズスは本当にメシアであり、神の子である。かれは復活し、もはやそこにはいないと語った。ピラトはすべてをひそかな恐れをもって聞いていた。しかしかれは少しもそれを表に出さないようにし、カシウスに言った。

 「おまえは狂信家だ。だから自分でガリラヤ人の墓の中に入るようなとんでもない馬鹿なことをしたのだ。それでかれの神々がおまえの上に魔力を及ぼして、幻を見せたのだ。  

 余はおまえに注意しておくが、このことは大祭司らにはだまっておく方がよい。さもなければおまえはひどい事件の掛り合いになるぞ。」

 かれはまた、イエズスの弟子たちに盗まれ、監視兵たちはこれを黙認したか、あるいはその任務を怠ったので、その言い訳に他の事を言っているのだ、さもなければかれらは多分魔法にかけられたのだと信じているような態度をとった。カシウスが出て行くとピラトは再び神々の前に犠牲をささげさせた。

 他の兵士らの中の四人もまたピラトに同じような報告を持って来た。しかしかれはもはや自分の考えは述べず、かれらをカイファの許にやった。たの監視兵たちは神殿に近い大きな中庭に行っていたが、そこには大勢の年寄りのユダヤ人が集まっていた。かれらは兵士たちに金とおどしで、自分らの眠っている間に、弟子たちがイエズスの死体を盗んだと言いふらさせることにしようと心をきめていた。しかし兵士たちはピラトに報告に行った仲間が、自分たちに反対するだろうと抗議すると、そのことは必ずピラトの所で協定するからと約束した。そうこうするうちに総督の所に行った他の四人もまた来て、前に申し立てた通りのことをここでもまた言い張った。

 しかしすでにアリマテアのヨゼフが扉の錠がかかっていたにもかかわらず、説明のつかぬ方法でその牢から逃げたことが評判になっていた。ファリサイ人たちは今度はこの四人の兵士たちが、もしもう一度死体を持って来ることができないならば、かれらが弟子たちと結託して死体を運び出したという疑いをかけようとし、そればかりでなくかれらをはげしく脅かした。しかしかれらは、そんなことはアリマテアのヨゼフの牢獄の監視兵が、その囚人を再びつれて来ることができないように、自分たちにもできないことだと言いかえした。かれらは頑強に反抗し、どうしても他のことを言うように買収されはしなかった。それどころかかれらの金曜日の不正な裁判を大胆にも公然と大声で言いはじめた。それでかれらは四人を捕らえ、監禁してしまった。

 しかしイエズスの敵共は、死体は弟子たちに盗まれたという評判を広めた。ファリサイ人、サドカイ人およびヘロデ派の人々はこれを至る所に言いふらさせた。ユダヤの全会堂のみならず、外国の会堂にまでもこの欺瞞はあらゆる誹謗により枝葉をつけられて喧伝された。しかしこの欺瞞もほとんど効を奏さなかった。それはイエズスのご復活後、多くの死んだ聖者の霊魂が、恩恵に快く従う限りの子孫に現れ、その心を動かして改心させたからである。また信仰がぐらつき、気力を失い、地方にちりじりになって行った多くの弟子たちにも、同じような出現があり、それに慰められ再びその信仰を固められた。

 イエズスの死後に行われた死者の甦りは主のご復活には少しも似てはいなかった。イエズスは復活し変容されたお体をもって出現され、日中生き生きとして地上を遍歴され、そのお体をもってその友らの前で昇天された。しかしかれらの体はただ霊魂の被いとして与えられた死体であった。かれらは再び地中に横たえられ、そこで公審判の日の復活をわれら一同と共に持っているのである。ラザロはしかし死から醒め、実際に生活し、次いで二度目に死んだのである。

 私はまたユダヤ人たちが神殿を洗い、磨き始めたのを見た、かれらは薬草や死者の骨灰を撒き、贖罪の犠牲をささげた。また取り片づけを始め、倒れた物を板や敷物で覆い、まだ終える事ができずにいた過越し祭の儀式を行った。

 かれらは一切の噂や不平を抑え、祭りの中断や神殿の破損は、不浄なものの出現によって起こった地震の結果であると主張した。また処罰で脅かしもした。こうしてかれらは頑迷な人民の大群を獲得してしまった。

 善人たちは今や昔、沈黙のうちに改心し、また後日、聖霊降臨の日には公然とその改心を告白した。大祭司は内心ではますます臆病になって行った。アンナは悪魔憑きのようになった。人々はかれを監禁し、その後は絶対に顔を出さなかった。

 シレネのシモンは安息日が終わってから使徒たちの所に来て、仲間に入れてもらいたいと願った。




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